羽田空港にほど近い、大田区の雑色・六郷土手エリア。そこには高度な技術力をもつ町工場が集積し、日々ものづくりに取り組む人々がいます。
実は工場だけでなく、飲食業でも一杯のコーヒー、一皿のカレーに情熱を注ぎ込む熱い人々がいます。
この記事では、雑色・六郷土手エリアで職人魂を燃やすオーナーが営む2つのコーヒー店と、スパイスカレー店をご紹介します。
それぞれのお店の「物語」にもご注目を。オーナーが人生をかけたこだわりの味を、ぜひ現地でご賞味あれ!
また3店舗に近い、2026年11月28日に開催されるイベント「おおたオープンファクトリー」の会場をご紹介します。「ものづくりへのこだわりと情熱」という共通点を辿りながら、ぜひ一緒に巡ってみませんか。
※おおたオープンファクトリー(通称OOF)とは
年に一度開催される工場見学・体験イベントです。
当日は普段は見ることのできない大田区内の工場や工房を訪れ、職人の技術に触れたり、ものづくりを体験したりすることができます。
第16回目となる2026年の参加工場や体験内容は、おおたオープンファクトリー2026特設サイトをチェック!
※2026年9月時点の情報です。



BUCKLE COFFEE(バックルコーヒー)は雑色駅から徒歩5分、2016年にシャッターの資材置き場だった場所でスタートしたコーヒーブランドです。

BUCKLE COFFEEを運営するのは、創業1963年の丸和工業株式会社。50年以上にわたりシャッターの製造事業を手がけてきた町工場です。
二代目の時代にシャッター事業から撤退することが決まったあと、三代目代表取締役・石山俊太郎さんが新たな事業として選んだのが、大好きなコーヒーの製造事業でした。
代々受け継がれてきた「本質を追求する職人のアイデンティティ」が、コーヒー事業に注ぎ込まれています。


店内のあちこちに、シャッター製造事業の歴史を感じられる内装が。

店内に飾られているお洒落なプレートは、かつて敷地隣にあった板金工場にオーダーしたもの。
一点ものを作り出す技術をもつ板金工場で、同店がシャッター工場だった頃は工具を貸し借りするようなお付き合いを重ねてきたそう。町工場やその技術へのリスペクトが伝わってきます。

コーヒーの4つのグレードのうち、BUCKLE COFFEEではその頂点である「スペシャルティコーヒー」の専門ブランドとして、店頭でのコーヒーとコーヒー豆の販売だけでなく、ECサイトでのコーヒー豆販売やオフィス向けのコーヒーサービスなど、精力的に事業を展開しています。
佐藤正洋(まさひろ)店長におすすめのコーヒーをお聞きしたところ、名前が挙がったのは【東ティモール レテフォホ】。
「石山代表の原点ともいえるコーヒーです。ピーナッツを思わせるような香ばしさと、バランスの取れた味わいが特徴で、日本で取り扱っているお店はとても少ないです」とのこと。

「コーヒー事業を立ち上げるなら、原材料の生産から関わりたい」
「よし、生産現場へ行こう」。
丸和工業株式会社の事業を大好きなコーヒーにシフトすると決めた石山さんは、青年海外協力隊として東ティモールに向かいました。
東ティモールはインドネシアの東部、ティモール島の東側に位置する国。コーヒーの三大生産地域(アフリカ・中南米・アジア)の一角でありながら、アフリカ・中南米ほど市場が成熟していないことに石山さんは可能性を感じ、渡航を決意したといいます。
インドネシア語を学び、2014年10月から2年間かけて現地NGOで東ティモール全土の農村を回り、コーヒーの栽培や加工に従事しながら修行を積みました。
帰国後、すぐに立ち上げたのがコーヒーブランド・BUCKLE COFFEEです。「東ティモール レテフォホ」は、石山さん自身も東ティモールで生産に携わった豆を、生産者から直接仕入れています。

BUCKLE COFFEEでは、毎月入れ替わりで新しい豆が2種類登場します。
店内には焙煎機が3台あり、テストで少量の豆を焼く小型機と、4〜5kgを焼き上げる本焙煎用の大型機械を使い分けています。テスト焙煎したなかから4〜5種類ほどの豆を選び、翌月使う豆を選定するのだそうです。
「焙煎日には、よく常連のお客さまが焼き上がりの様子をのぞきに来られます」と佐藤さん。
黄土色の豆が香ばしい色合いへと変化していく様子を目の前で見学できるのはこの店ならではの体験です。

代表の石山さんだけでなく、店長の佐藤さんもまた異業種からコーヒーの世界に転身したおひとり。
前職はシステムエンジニア。タバコやお酒が得意ではない佐藤さんにとって、コーヒーは同僚やクライアントとの大切なコミュニケーションツールだったといいます。
「コーヒーには、幸せな時間やコミュニケーションを生み出す力があると思います。
オープンファクトリーを楽しんだあとに、ぜひ気軽にお立ち寄りください」。
住所:東京都大田区東六郷2-4-14 MANU ZOSHIKI 1F
電話:03-3731-1515
営業時間:9:00~17:00
定休日:水曜・木曜
アクセス:京浜急行電鉄本線「雑色」駅より徒歩5分
HP:https://www.bucklecoffee.com/
SNS:https://www.instagram.com/bucklecoffee/

「ニッカル商工」はアルミ材の販売・加工を手がける工場です。材料選びから精密切削加工、測定まで対応して部品や試作品を製作。
”図面の先まで、一緒に考える町工場”です。
◎おおたオープンファクトリー(OOF)当日の見どころ
・工場内の加工機の見学
・精密切削の技術紹介
・部品の寸法や形状を立体的に測る「3次元測定器」の活用法を紹介
詳細は「おおたオープンファクトリー2026 特設サイト」をチェック!


続いて2店目は、「CROSS珈琲館」。
雑色商店街で約16種類のコーヒー豆とテイクアウトドリンクを販売するコーヒースタンド「CROSS珈琲豆店」の2号店として、2025年2月にオープンしたカフェです。

「上質なコーヒーを、ゆったりと味わえる空間を提供したい」という店主・中島稔充(としみつ)さんの想いからスタートしました。こだわりのコーヒーと美味しいお菓子を楽しむことができます。


中島さんのこだわりは、お客さまに「コーヒーを選ぶ楽しさ」を提供すること。選び方に迷うお客さまには、好みを聞いた上で、丁寧に豆の特徴を説明しています。
「パン屋さんでワクワクしながら好きなパンを選ぶように、お客さまにコーヒー選びを楽しんでいただきたいといつも考えています」。(中島さん)
定番の豆と月替わりの豆を用意し、自らの目利きで選んだ品種を少量ずつ仕入れ、それぞれの味を最大限に引き出す焙煎を行った上で提供するのが中島さんスタイル。

コーヒー店の名刺ともいえるオリジナルブレンドはなんと7種類!
オリジナルの「ブレンドのナンバリング」という味の方向性を番号で振り分けた表があり、「自分が好きな味わいは酸味か、苦味か」などを確認しやすい仕組みとなっています。
コーヒー初心者の筆者にとって、すごく分かりやすかったです。


オリジナルブレンドのNo.1と一緒に、看板商品の一つ、カヌレをいただきました。
ブレンドのNo.1は酸味・甘味・苦味のバランスを中央でとった一杯。コーヒーの深みと、カヌレのコクと深みの相性は抜群、とっても幸せな気持ちになりました。カヌレだけを買いに訪れる常連客もいらっしゃる、というお話も納得!
「スイーツは自店のブレンドコーヒーを基準に試作に試作を重ね、双方を引き立てる味わいを追求しています」。(中島さん)
両親の影響で、学生時代からドリップコーヒーに親しんできたという中島さん。
システムエンジニアとして多忙な日々を送りつつも家族と賑やかに過ごしていた2020年、コロナ禍における巣ごもり生活が始まりました。
自宅で過ごす時間が増えたとき。中島さんはふと「豆から焙煎して、コーヒーを淹れてみよう」と思い立ち、家庭用の焙煎機と生豆を購入。皮が飛び散るため、ガレージで焙煎するように。
香りにつられて顔を出したご近所の方に焙煎した豆を振る舞うと、「美味しい」「朝にコーヒーを淹れるのが楽しみになった」と大評判に。

その後、珈琲焙煎への情熱は増すばかり。
ノートに温度や分刻みの時間、豆の色味や香りの変化などを書き留めながら試行錯誤を重ね、産地や精製方法が異なる20種類ほどの豆の焙煎レシピができたといいます。
ついには2021年。近隣住民の声が後押しとなり、IT系企業に勤務しながら「CROSS珈琲豆店」をオープン。「平日は妻が、週末は自分が店に立つ、家族二人三脚のお店が始まりました」。(中島さん)

「ガレージでノートにひたすら書き溜めて焙煎レシピをつくった経験は、業務用の大きな焙煎機を使うようになった今も基礎として生かされています」(中島さん)。
さらにその3年後。「上質なコーヒーを味わいながら、豊かな時間を過ごせる場所をつくりたい」という想いが募りに募り、1号店・CROSS珈琲豆店から徒歩3分ほどの場所にカフェ形態の2号店をオープン。中島さんは思い切って会社員を辞め、カフェの店主となりました。


「手間と時間をかけて淹れたコーヒーを、ゆったりと楽しめる空間をご提供します。ご来店をお待ちしております」。
住所:東京都大田区仲六郷2-8-2-202
営業時間・定休日:公式ホームページまたはSNSよりご確認ください
アクセス:京浜急行電鉄本線「雑色」駅より徒歩1分
ホームページ:https://cross-coffee-beans.jp/
SNS:https://www.instagram.com/cross_coffee_bakery
住所:東京都大田区仲六郷2-18-11 雑色商店街通り
営業時間・定休日:公式ホームページまたはSNSよりご確認ください
アクセス:京浜急行電鉄本線「雑色」駅より徒歩3分
ホームページ:https://cross-coffee-beans.jp/
SNS:https://www.instagram.com/cross_coffee_beans/

1981年に開校した、ガラス工芸の専門教育機関です。吹きガラスや切子など、幅広い技法が継承されています。小学生を含む一般向けの体験教室も開催されています。
◎おおたオープンファクトリー(OOF)当日の見どころ
・繊細な模様が生まれる「蒲田切子」の製作実演
・東京ガラス工芸研究所の施設見学
詳細は「おおたオープンファクトリー2026 特設サイト」をチェック!


YARD Curry & Coffeeは、京浜急行「六郷土手」駅から徒歩1分の場所にあるスパイスカレーとコーヒーのお店です。
店内に入った瞬間からスパイスの香りが食欲を刺激する同店では、オーナー・小林純さんの「クラフトカレー」を堪能することができます。
クラフトカレーという言葉に明確な定義はありませんが、大量生産・画一化されたカレーではなく、作り手のこだわりや個性を生かして、小規模で丁寧につくられるカレーという意味で使われています。
小林さんのクラフトカレーは、独自ルートで学んだスパイスの知識をもとに、オリジナルブレンドのスパイスで作り上げた「スパイスカレー」。
「当店でしか食べられない味に仕上がったと自負しています」。(小林さん)

看板商品「チキンキーマカレー」をいただきました。トッピングにはクレソン、生の紫玉ねぎ、自家製スパイスで味付けしたフライドオニオン、レモン。ごはんは平日限定サービスを利用し、プラス100円で雑穀米に。
スパイスの味わいがあまりに深く、もうスプーンを口に運ぶ手が止まりません。
筆者は、カレーは「最初は美味しい、でも味が単調だから途中で飽きる」というタイプですが、こちらのカレーは異なる食感のトッピングと一緒に食べるので、最後まで飽きる暇もありません。奥深いスパイスの旨みと、トッピングによって次々と変わる食感に酔いしれました。

コーヒーはカレーに合う味を意識したオリジナルブレンドを3種類展開。(浅煎り・中煎り・深煎り)
アイスコーヒーはネルドリップ(布フィルター)で淹れることでクリアな味わいに。
カフェタイムも営業しており、オリジナルスパイスを使ったチャイティー、クラフトジンジャーエールなどのオリジナルドリンクや、グルテンフリーのバスクチーズケーキなどを楽しむこともできます。
2023年。飲食業界出身の小林さんがその道を離れ、建設業界に身を置いていた時期のこと。
偶然、インド出身の店主が開くスパイス専門店にふらりと立ち寄りました。
クミン、コリアンダー、ターメリック、ガラムマサラ。「スパイスを組み合わせてカレーを作るといいよ」と店主からアドバイスをもらって自宅で作ってみたところ、驚くほど美味しいカレーができたといいます。
「雷に打たれたような衝撃でした。スパイスがここまで奥深く、ここまで旨いものだと、人生で初めて知りました」と小林さん。
この出来事をきっかけに持ち前の凝り性に火がつき、スパイス専門店に通い詰めるほどスパイスの世界にどっぷりと浸かっていきました。
「面白いことに、店の人とスパイスの話をしていると、その場に居合わせた海外出身のシェフの方々がスパイスの使い方を教えてくれることがしょっちゅうだったんです。翻訳機を片手に、日本にいながら本場の味を学ぶ貴重な体験でした」。

試行錯誤しながらスパイスカレーを作り続けること約2年。小林さんの心のなかで、一度は諦めた飲食業の道と「いつか自分の店をもちたい」という夢が再燃するように。
スパイス店の店主からの卸売のオファーを受けたことが決め手となり、小林さんは建設業を退職し、2025年11月に同店をオープンしました。
現在はご夫妻で店を切り盛りしています。妻の弥矢(みや)さんもかつて飲食業への夢を諦めた過去があり、このお店は夫婦にとって、もう一度夢と向き合う挑戦の舞台です。
「子どもたちに、親が好きな仕事で働く背中をみせようね」。開店にあたり、夫婦でそんな会話をしたそうです。

「夫が作ったスパイスカレーを食べるようになってから、生き方が整いました。飲食業への夢をもう一度追うようになったこともそうですし、食欲が湧くようになりました」と語る弥矢さん。
当時は子育てしながら働く慌ただしい日々に、食事が義務にすら感じることもあったそう。
「スパイスに刺激されたのか、お腹がきちんと空くようになりました。小麦粉を使っていないので、食後も胃が重くならないんです」。

2025年11月のオープンから間もなく1年。羽田空港の行き帰りに途中下車して来店するお客さまが増えるなど、順調にファンを増やしています。
「職人の町・六郷土手で店を構えたからには、クラフトマンとしてしっかりと、こだわりをもってスパイスカレーの味を広めていきます。当店のカレーが、六郷土手に足を運ぶ一つのきっかけになったら嬉しいです」。(小林さん)
住所:東京都大田区仲六郷4-17-1 伊東屋ビル 2F
電話:03-6424-4728
営業時間:
火・水・木・金:11:30~L.O.14:30、18:00~L.O.20:30
土・日・祝日:11:00~L.O.16:30
アクセス:京浜急行電鉄本線「六郷土手」駅 改札から42m
SNS:https://www.instagram.com/curry_coffee_yard/
お支払い方法は現金のみとなります

不動産情報サービスのアットホーム株式会社が、本社1階に設けた地域交流施設「アットホームスクエア」。
その中の「明日への扉ギャラリー」では、伝統文化を受け継ぐ若者たちが手掛けた作品を100点以上展示しており、無料でお楽しみいただけます。
◎おおたオープンファクトリー(OOF)当日の見どころ
・大人も子どもも楽しめる「六郷マルシェ」(同時開催)
・人気のキッチンカー出店
・伝統工芸ワークショップ
・押し花体験・作品販売
詳細は「おおたオープンファクトリー2026 特設サイト」をチェック!
取材を終えて。雑色・六郷土手で出会ったのは、こだわりの一杯と一皿、そして3店舗それぞれの物語でした。
家族が長い歴史の中で育んできたものづくりの魂を、コーヒー作りという新しい自分の道へ。ガレージで始めた焙煎を、家族の生き方へ。
スパイスとの出会いから、一度は手放した飲食の夢をもう一度。
自分の生き方と自分の味を追求し、試行錯誤を重ねるオーナーや店主の姿に胸が熱くなりました。
ぜひ、おおたオープンファクトリーで工場の扉の向こうをのぞいたら、周辺の飲食店にも少し足を延ばしてみませんか。
そこには、もうひとつの「ものづくりのまち」の風景が広がっています。
本記事のライター:Hana
プロフィール:大田区歴約15年、小学生の姉妹を子育て中。大田区の魅力は知るほどに深く、気づけばすっかりトリコ。
監修:NPO法人大森まちづくりカフェ
「大森まちづくりカフェ」は情報紙の発行や地域密着型のイベント企画など、まちの魅力を発見し伝える事業を通じて、
大森がもっといきいきするような交流の場(=カフェ)の構築を目指すNPO法人です。