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  • 2025.9.19

「お客様を笑顔にしたい」久が原在住の書家・金澤翔子さんの2024年にオープンした「アトリエ翔子喫茶」と「画廊・翔子」を訪ねて

東急池上線久が原駅からライラック通りを歩くこと約5分。
ライラック通り沿いに、書家の金澤翔子さんがウェイトレスとして接客する「アトリエ翔子喫茶」と「画廊・翔子」があります。1階の喫茶室では翔子さんに会えたり、2階にある画廊では翔子さんの作品を購入できたりすることから、地元だけではなく遠方からも多くの人が集います。

今回は、「アトリエ翔子喫茶」、「画廊・翔子」を訪ね、さらに翔子さんおすすめのライラック通りにある「レストラン ダック」にも行ってみました!
金澤翔子さんを通して、久が原という街の魅力をお届けします。
(取材内容は2025年7月当時のものです)
(イベント時など、「アトリエ翔子喫茶」に金澤翔子さんは不在のときもあります)

地元の人々の憩いの場にもなっている「アトリエ翔子喫茶」

2024年12月にオープンした「アトリエ翔子喫茶」。イベントなどで外出している時以外は翔子さんと会えるとあって、近隣はもとより遠くからもたくさんの人が訪れます。入り口に飾られている書は、翔子さんが一番好きな言葉である“共に生きる”。


「翔子は接客の仕事が向いているとずっと思っていたので、その場ができたことが本当に嬉しいです」と話すのは、翔子さんのお母様である金澤泰子(やすこ)さん。翔子さん自身も、「ウェイトレスとして働くことがとても楽しい」と、終始笑顔で仕事をしていました。

30歳から8年間、久が原で一人暮らしを体験した翔子さんは、久が原に住む人々にあたたかく見守られて愛されてきました。泰子さんは、喫茶店をオープンしたことで「久が原の街に翔子を託すような思い」と話していたことがとても印象的でした。

お店の人気メニューは、ナポリタンやハンバーグ、カレーなどで、一緒に働くスタッフが試行錯誤の末に辿り着いた味を提供しているそうです。飲食メニューは定番メニューと季節のメニューがあり、季節ごとに違った味を楽しむことができます。

スイーツなども全て手作りで、四季折々のスイーツを楽しみしているファンも多いのだとか。
お店には、「こんにちは翔子ちゃん」と声をかける地元の常連客の方もいらっしゃれば、遠くから「翔子さんに会いに来たんです」と話す方もいました。

「書のイベントが続いたりすると、翔子はストレスを溜めて爪を噛んで爪が短くなってしまうことがありました。それが最近では無くなって本当に良かったです」と泰子さん。翔子さんの爪には素敵なネイルが施されていて、久が原と千鳥町の中間くらいの場所にあるネイルサロンに通うのが楽しみだと教えてくれました。

「これからも喫茶店の仕事を頑張りたい」と話す翔子さん。「アトリエ翔子喫茶」は翔子さんを慕って人が集い、笑顔で溢れる居心地の良い空間でした。

アトリエ翔子喫茶

所在地:東京都大田区久が原3-37-3 1F
アクセス:東急池上線「久が原」駅徒歩5分
TEL:03-6410-2202
営業時間:11:00~18:00(ラストオーダーは17:30)日曜・祝日定休
公式サイト:https://k-shoko.org/

1階の喫茶室でくつろいだ後、翔子さんの書の世界を堪能しに2階の画廊へ行きました。

金澤翔子さんの力強い書を間近に見られる「画廊・翔子」

金澤翔子さんが初めて筆を持ったのは5歳の頃で、久が原で書道教室をしていたお母様の金澤泰子さんの影響だったそうです。

「近所の子どもたちに書道を教えていたのですが、翔子は最初から筆をしっかりと持っていました。子どもながらに私が筆を持つ姿を、小さい頃から熱心に見ていたからでしょうね」と泰子さんは当時を振り返ります。

よく聞かれるそうですが、泰子さんは翔子さんを書の道で伸ばしたいと育ててきたわけではないそうです。日常に自然と書があって、特に困難にぶつかったときには、翔子さんと二人でひたすら書に向き合って心を落ち着けてきたのだといいます。

「翔子は生まれたときにダウン症と診断され、当時は今ほど世間の理解もなくて正直大変なことがたくさんありました。翔子が書に邁進したのは、私を笑顔にさせたい一心だったのでしょうね。本当に愛にあふれた優しい子なのです」と泰子さん。

翔子さんの書が評価されたのは、2005年に銀座で初の個展を行ったときのことでした。個展を開くことになったのは、2000年に52歳の若さで亡くなった翔子さんのお父様のアイデア。
泰子さんは「翔子の字はとても素敵だから20歳になったら銀座で個展をしよう」という言葉を思い出し、開催に漕ぎつけたそうです。いざ個展を開いてみると、メディアに大きく取り上げられてそれから瞬く間に翔子さんの才能は世間に認められていったのでした。

2022年7月に久が原にオープンした「画廊・翔子」では、そんな翔子さんの魅力あふれる書を間近に見ることができます。躍動感に溢れた力強い書は、言葉を失ってしまうほど見る人の心を惹きつけ、書の持つ力、そして金澤翔子さんの才能をひしひしと感じさせます。
また、画廊に飾られている作品は、時期によって入れ替わることもあるそうです。

画廊では、カレンダーや絵葉書なども販売していて、お土産に買い求める方の姿が見られました。
泰子さんによると、絵葉書は自分やお子さん、お友達の名前に縁のある文字を選ばれる方が多いのだとか。私は、泰子さんのお話で翔子さんが愛に溢れているというエピソードに心を打たれたので、「愛」と書かれた絵葉書を購入しました。

画廊・翔子

所在地:東京都大田区久が原3-37-3 2F
アクセス:東急池上線「久が原」駅徒歩5分
TEL:03-3753-5447
営業時間:11:00~18:00(日曜・祝日定休)
公式Instagram:https://www.instagram.com/shoko.kanazawa/

翔子さんが久が原で暮らし始めたのは2〜3歳頃で、泰子さんが心休まる地を求めて辿り着いたのがこの地だったそうです。街の雰囲気やそこに暮らす人々のぬくもりを感じたのだといいます。
そんな久が原の街で育った翔子さんのお気に入り「レストラン ダック」にも行ってみました。

翔子さんが小さい頃から通う「レストラン ダック」

来年(2026年)で創業50周年を迎える「レストラン ダック」は、地元の人々に愛されてきたフレンチ・洋食のお店です。現在は、ディナーだけでなくランチの営業もしていて、地元のみならず遠方からもファンが訪れる知る人ぞ知る穴場。

店主の山﨑和雄さんが久が原で店を開こうと思ったのは、新聞広告に久が原の物件を見つけたことがきっかけでした。当時の久が原は今のように舗装された道ではなく、飲食店も少なかったそうで、ここで地域に根ざして愛される店を開こうと新宿から店を移転することに決めたそうです。

「味のベースはフレンチですが、お客様の口に合うよう改良を重ねてきました。リピーターのお客様に支えられて約50年店を続けてこられたことに感謝でいっぱいです」と山﨑さん。
当初は奥様と二人三脚で店を切り盛りしてきましたが、今では外で料理を学んだ息子さんも加わって家族3人でお店を営んでいます。

「レストラン ダック」で提供される料理の特長として、山﨑さん自ら豊洲まで仕入れに行くのが日課で、どれも鮮度や品質の良い素材を使っているということ。ヒラメのムニエルひとつとっても、お刺身用の生でも食せるヒラメを使うなど、素材へのこだわりが光ります。
料理をいただいてみると、素材の良さに山﨑さんの腕がかけ合わさった確かな味で、リピーターが多いことに納得です。

お店の人気のメニューは、ヒレステーキやサーロインステーキ、ビーフシチュー、エスカルゴのブルゴーニュ風など。ラム酒の香りがアクセントのクレームブリュレなどのスイーツも全て自家製です。

さらに料理に合わせるワインは、メニュー以外に200〜300本以上はあるのだとか! ワインの好みを伝えて相談することもおすすめです。

金澤翔子さんとのエピソードを聞くと「まだ3〜5歳の頃から家族でよく来てくれていました。肉料理がお好みのイメージで、今もお店に来てくれています」と山﨑さん。小さな頃から知っている翔子さんが活躍している姿が嬉しいと顔をほころばせていました。

レストラン ダック

所在地:東京都大田区久が原3-30-11
アクセス:東急池上線「久が原」駅徒歩7分
TEL:03-3754-3769
営業時間:11:30~14:00、17:00~23:00(月曜定休)
公式サイト:http://home.a03.itscom.net/rtdk/

久が原のライラック通りには、魅力的なお店がたくさんあって、散策にもぴったり。
「ライラック祭り」など、年間を通してイベントも積極的に実施しているので、ホームページなどで日程を確認してぜひ遊びに行ってみてください!
イベントで金澤翔子さんに出会えるかもしれません♪

ライラック通り久が原(久が原銀座商店街振興組合)
https://lilac.kugahara.tokyo/

プロフィール

金澤 翔子/かなざわ・しょうこ

書家。5歳のときに書家である母・泰子に師事し書を始める。世界的に活躍する日本を代表する書家の一人。ダウン症の書家としても広く知られており、伊勢神宮や東大寺など名だたる神社仏閣での奉納や美術館展示会のほか、ニューヨークやロンドンをはじめとする世界各地で個展や公演を開催している。バチカン市国ローマ教皇に大作『祈』の寄贈、NHK大河ドラマ『平清盛』の題字、東京オリンピック公式アートポスターの制作、上皇陛下御製(天皇御在位中)の謹書を担当。2013年には紺綬褒章を受賞。2024年大田区観光PR特使就任。
▪️公式ホームページ https://k-shoko.org/
▪️Instagram https://www.instagram.com/shoko.kanazawa/

金澤 泰子/かなざわ・やすこ

書家。随筆家。書家金澤翔子の母。久が原書道教室主宰。
ダウン症の娘を授かり「希望」を探し続けた母娘二人三脚の軌跡をはじめ、地域との関わりや、娘の一人暮らしの様子から障害者の自立をテーマにした講演には高い定評がある。現在はテレビやラジオを中心に多数のメディアに出演する傍ら、随筆家としても活躍し執筆著書は30タイトルを超える。
東京芸術大学評議員 日本福祉大学客員教授

本記事のライター:大曽根桃子

プロフィール:大田区在住のフリーライター&エディター。取材記事や体験記事、コラム記事などを執筆しています。食べること、銭湯(サウナ)めぐり、テニス、カメラが大好きで、大田区のあちこちに出没しています。

監修:NPO法人大森まちづくりカフェ

「大森まちづくりカフェ」は情報紙の発行や地域密着型のイベント企画など、まちの魅力を発見し伝える事業を通じて、大森がもっといきいきするような交流の場(=カフェ)の構築を目指すNPO法人です。