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  • 2024.3.27
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大田区馬込エリアの坂道、だいたい上る! 意外な由来や絶景も

かつては「九十九谷(つくもだに)」と呼ばれたほど、坂道が多く、起伏の激しい大田区の馬込エリア。

馬込エリアに住む友だちは、「坂道が多すぎて自転車が買えない」と言っていました。あちこちに坂道が出現するから、自転車での移動は絶望的なんだとか(個人の意見です)。ほんとに……? そんなことある??

大田区在住ライターの私ですが、住んでいるエリアが離れているため馬込には疎いです。せっかくの機会なので、実際に馬込に行って検証してみましょう。なお、今回ピックアップしたほとんどの坂道に標識があり、坂の名称や由来が書いてあったため、合わせて紹介します。

以下の観点でそれぞれの坂道を比べてみました(5点満点で★を付けていきます)。この記事を参考にして、あなたにとっての「My ベスト坂」を見つけに、馬込へ出かけてみてください!

・見つける難易度
・上る難易度
・絶景度
・由来のユニーク度

※本記事で紹介している坂道の由来は、以下「大田区の坂道」ページや、標識に記載されている内容を参考にしています。
https://www.city.ota.tokyo.jp/midokoro/spot/ootaku_sakamichi/index.html

1.馬込坂(まごめざか)

馬込坂は、都営浅草線「西馬込」駅の目の前の大通り(第二京浜)にある、なだらかな坂道です。「馬込坂下」と書かれた歩道橋を見て、「あ! このへんが馬込坂なのか!」と気づいたほど、ゆったりとした傾斜でした。

「このくらいの坂道なら、自転車でもグイグイ上れそうだ! 今日の取材は余裕かも? 」

このときはまだ、馬込の坂の恐ろしさを分かっていませんでした……。

近くに「馬込橋」「馬込坂下」といったバス停ができたことから、自然に「馬込坂」と呼ばれるようになったんだそう。「馬込」の地名を冠した坂だから、深い由来があるのかと思いきや、バス停から自然発生した名称とは意外でした。

・見つける難易度:★
・上る難易度:★
・絶景度:★★
・由来のユニーク度:★

馬込坂

住所:東京都大田区西馬込1丁目19 付近
Google マップ:https://maps.app.goo.gl/6h6keM9HHodstHYS7
Google ストリートビュー:https://maps.app.goo.gl/SRAVqqJGpdrmHVwt7

2.二本木坂(にほんぎざか)

馬込坂のふもとから脇道に入るとすぐ現れたのが二本木坂。近くにグラウンドがあり、子どもたちの元気な声が響きます。馬込らしいのどかな雰囲気を感じながら、住宅街のなかをまったり歩ける坂道でした。

由来はこの辺りの昔の地名、「馬込村小字二本木」から。かつては大きな二本の木でも立っていたのでしょうか。ただ坂を上るのではなく、由来を知ってから上ってみると、昔の風景や住んでいた人々について、具体的にイメージできるので楽しいです。

・見つける難易度:★
・上る難易度:★★
・絶景度:★★
・由来のユニーク度:★

二本木坂

住所:東京都大田区西馬込1丁目10付近
Google マップ:https://maps.app.goo.gl/k2eGVfRy3uXj2ZV46
Google ストリートビュー:https://maps.app.goo.gl/1iyAox3vkGYkGziA8

3.南坂(みなみざか)

二本木坂から第二京阪をまたぎ、反対側の脇道に入るとすぐ見つかったのが南坂です。

すぐ見つかったのも当然。二本木坂と南坂は昔、一本の道としてつながっていたようです。この古道は馬込の氏神さまである「八幡神社」から、旧池上村の根方(現在の仲池上一丁目付近)まで通じた道でした。南坂の名前は「八幡神社より南にある」というシンプルな由来です。

ぐにゃりと曲がる傾斜の強い坂は、ここまでで一番きつかったです。でも、上ったあとの景色って、坂のきつさに比例しますね。ちょっと遠くの街まで見渡すことができました。本当に今日、晴れてよかったなあ……。坂道日和だ。

・見つける難易度:★
・上る難易度:★★★
・絶景度:★★★
・由来のユニーク度:★

南坂

住所:東京都大田区南馬込5丁目6 付近
Google マップ:https://maps.app.goo.gl/7y7CENzU3PVn9cn29
Google ストリートビュー:https://maps.app.goo.gl/2XjvXzCm3RmBTUUA8

4.蛇坂(へびざか)

「名前からして絶対ぐにゃぐにゃした坂だ!」と予測して向かった蛇坂。なんと、詳しい由来は明らかになっていないらしいです。蛇が多数出没したからとか、蛇のように曲がった坂だからとか、さまざまないわれがあるそう。

古びた標識がぽつんと立つ、由来の分からない坂……。蛇が出た(かもしれない)というエピソードも相まって、ちょっとゾクッとします。

うわあ! すんごいヘアピンカーブ! やっぱり由来は「蛇のように曲がっていたから」なんじゃないかな〜と思ってしまいますね。自転車や車で下りるとき、スピードを出しすぎると危なそうです。

急坂ではありますが、曲がりくねりすぎてあまり遠くを見渡せる景観ではないことが、ちょっと惜しいところでした。

・見つける難易度:★★
・上る難易度:★★★
・絶景度:★
・由来のユニーク度:★★

蛇坂

住所:東京都大田区南馬込1丁目27 付近
Google マップ:https://maps.app.goo.gl/xygkDTx9wSAKGHtr9
Google ストリートビュー:https://maps.app.goo.gl/aWtq16HxY86rAdKi6

5.おいはぎ坂(おいはぎざか)

蛇坂より恐ろしい名前の坂を見つけてしまった……。おいはぎ坂はその名の通り、かつて「おいはぎ(通行人の服や金品を奪うこと)」の被害が多かった坂なんだそうです。

大田区のホームページやGoogle マップを確認すると、たしかにこの場所なのですが……、ここだけ標識は確認できませんでした。ちょっと見つけにくいかもしれませんが、赤い鳥居の出世稲荷神社が坂の目印です。

鳥居の脇にある坂道を上っていくと、墓地に到着します。大正の頃は、墓地の反対側に木が茂り、寂しい雰囲気の場所だったんだとか。たしかにそれなら、おいはぎ被害もあるかもしれない……。

現在は写真の通り、墓地の反対側は壁で覆われ、工事中のようです。おだやかな昼間に行ったからか、墓地のそばでもまったく怖さはありませんでした。背の高い建物がないので、遠くまで続く青空がよく見えます。不思議と爽快感のある景色でした。

・見つける難易度:★★★
・上る難易度:★★★
・絶景度:★★★
・由来のユニーク度:★★★

おいはぎ坂

住所:東京都大田区南馬込4丁目7 付近
Google マップ:https://maps.app.goo.gl/NLqPQmaRiAjBNKhA8
Google ストリートビュー:https://maps.app.goo.gl/tXu2MrEy6sZbw4uJ7

6.鐙坂(あぶみざか)

「鐙(あぶみ)ってなんだっけ? 」と考えながら向かった鐙坂。鐙とは、乗馬するときに足を乗せる場所のことでした。

鐙坂は、梶原景季(かじわらのかげすえ)という鎌倉時代の武将が、愛馬の磨墨(するすみ)の鐙を落とした伝説のある場所、「鐙谷」という地名から付けられた名前なんだそうです。

坂を上り続けて6つ目、ついに歴史的なエピソードにちなんだ具体的な由来に出会えました! シンプルな由来もいいけど、こういうエピソードに出会えるとちょっとテンションが上がります。

なだらかに遠くまで続く坂道。梶原景季さんは、大切な愛馬・磨墨の鐙を見つけることができたのかなあ。それにしても、いっぱい坂を上って疲れてきたなあ……。

・見つける難易度:★★
・上る難易度:★
・絶景度:★★
・由来のユニーク度:★★★★

鐙坂

住所:東京都大田区南馬込4丁目4 付近
Google マップ:https://maps.app.goo.gl/wLpPUvsdjAQwnoyBA
Google ストリートビュー:https://maps.app.goo.gl/SiG9gwkBZMbu8Jbw6

7.臼田坂(うすだざか)

かねてより馬込から大森へ抜ける道として使われてきた大通りに、臼田坂はあります。現在も通りとしての需要が高いようで、歩いて臼田坂を上る途中も、となりを車がびゅんびゅんと駆け抜けていました。

驚きなのがその由来。なんと、「臼田さんがたくさん住んでいたから」臼田坂となったようです。住んでいる人の由来で名付けられる坂もあるんだ……。私は安光なので、安光姓が固まって住めば、「安光坂」にできるなあ……(笑)。

また、臼田坂は大正から昭和にかけて多くの作家たちが住んでいた、「馬込文士村」のメインストリートでもあるそうです。馬込文士村めぐりをするときには、この臼田坂にも注目してみてください!

・見つける難易度:★
・上る難易度:★★
・絶景度:★
・由来のユニーク度:★★★★

臼田坂

住所:東京都大田区南馬込3丁目39 付近
Google マップ:https://maps.app.goo.gl/exMwEkkUrmfZxEQz7
Google ストリートビュー:https://maps.app.goo.gl/AMvNA1uf4JZNcaKQ6

8.右近坂(うこんざか)

臼田坂の由来に興奮していたら、さらに興味深い「人の名前由来」の坂に出くわしました。右近坂です。

この坂、はっきりとした由来は分かっていないのですが、一説には「おこん」という女性が住んでいたという話があるようです。もしその説が本当なら、たった一人で坂の名前になった「おこん」はどんな女性だったんだろう……。絶世の美女? 肝っ玉母さん? きっと噂になるくらい有名な人だったんでしょう。会ってみたいな……。

メインストリートである臼田坂からすこし脇道に入っただけでしたが、閑静で車通りの少ない、落ち着いた坂道でした。

・見つける難易度:★★
・上る難易度:★★
・絶景度:★★
・由来のユニーク度:★★★★★

右近坂

住所: 東京都大田区南馬込3丁目28 付近
Google マップ:https://maps.app.goo.gl/iovN4HBLwNb7dpua6
Google ストリートビュー:https://maps.app.goo.gl/TaRybNo2nDqpS8GT6

9.名もなき坂 ※番外編

名前がついていないのですが……、それに住所的には馬込でもないのですが、どうしても、どうしても紹介させてください! この坂!!

臼田坂に向かう道中に見つけたこのとんでもない坂は、佐伯山緑地と呼ばれる小高い丘の脇にあります。なんと勾配は20%。本記事で紹介している坂のなかで、勾配の標識を見たのはここだけです!

上ろうとすると身体がつんのめるような、ザ・激坂でした。見落としてしまうような小さな坂には名前が付いているのに、なぜこんな大きな坂には付いていないんだ! 不思議でなりません。

いくつもの坂を上ってきてもう身体はボロボロですが、力を振り絞ってなんとか上ってみました。

ふわーーーーーーー!!!!

すごい! すごくいい!!! 晴れててよかった~~~!

坂上りの醍醐味はやっぱり、頂上からの景色にあると思います。遠くの建物までスコーーンと見渡せる広々とした景色は、上った人にしか味わえません。スカイツリーや東京タワーでは味わえない、達成感と開放感があるんですよね。

・見つける難易度:★
・上る難易度:★★★★★
・絶景度:★★★★★
・由来のユニーク度:ー

名もなき坂

住所:東京都大田区中央5丁目17 付近
Google マップ:https://maps.app.goo.gl/RVJBrDZLuixMs5v77
Google ストリートビュー:https://maps.app.goo.gl/QgLs7A7p2iKESSHJ8

10.闇坂(くらやみざか) ※番外編


馬込エリアの坂の取材が終わり、大森駅方面に帰ろうとしたとき、この闇坂に出会いました。なんとも怪しげなネーミング……。馬込エリアからはみ出ているけど、どうしても気になる……! 由来の書かれた標識を覗き込んでいると、近所に住む方が声をかけてくれました。

「この坂の右手には城南信用金庫の前身を作った加納家のお屋敷があってね、左手の赤いレンガの建物のあたりは昔、八景園という遊園地だったんだよ」

お若そうにもかかわらず、生き字引のようにこの場所のことを教えてくれるおじいさんでした。実際に住んでいる方の、リアルな情報はありがたいです! すごい賑わいのありそうな坂じゃないですか!

「なぜ、遊園地や豪邸があるのに闇(くらやみ)なんだろう? 」と思いましたが、かつては八景園の樹木がうっそうと覆いかかって、昼間でも暗かったかららしいです。

今は跡形もない八景園。「赤いレンガの建物」というおじいさんの情報を頼りに、近くを探してみました。

赤いレンガ……それらしき建物を発見しました。いまもたくさんの人が住んでいそうな現役マンションの入口に掛かっていたのは、「八景園」の表札。これじゃん!!!

なんと、八景園という名前のマンションでした。廃業後、1922年から1924年にかけて区画分譲され住宅街へ変わっていったという八景園跡地ですが、そのあとにできたであろうこのマンションで、「八景園」の名前が引き継がれていたとは。この土地の歴史が大切に守られているみたいで、なんだかあったかい気持ちになります。

坂道めぐりの最後に、素敵な出会いができました。

・見つける難易度:★
・上る難易度:★★
・絶景度:★★
・由来のユニーク度:★★★★★

闇坂

住所:東京都大田区山王31
Google マップ:https://maps.app.goo.gl/46j3Sw186vxssrzh9
Google ストリートビュー:https://maps.app.goo.gl/4nr1jrHDGbF7QoEw6

以上、深い由来のある坂から、名前のない坂まで、合計10個の坂道を紹介しました。

いや~さすがに1日で10個の坂を上るのは身体にこたえます! でも、自分の脚で坂を上り、坂ごとに異なるそれぞれの景色を眺めるひとときは、疲れたのに癒される、不思議な時間でした。

これって、馬込エリアに住んでいる人にとっては日常なのかもしれませんね。今回は歩きでしたが、自転車で上るのはたしかに厳しいかも。「自転車は買わない」と判断した友だちの意見に同意です……!

なお、馬込の坂はこれだけではありません。とても果てしないので、「馬込の坂全部上る! 」なんて記事は書けないです。名前のある坂について、「“だいたい”上る」という表現に留めさせてもらいます。いつかコンプリートできたらいいなあ。

また、馬込のお隣の池上・洗足池エリアにも、多くの坂道があるみたいです。大田区の公式サイトを見ると、「紅葉坂(もみじざか)」「此経難持坂(しきょうなんじざか)」など興味深い名前の坂もちらほら。
参考:https://www.city.ota.tokyo.jp/midokoro/spot/ootaku_sakamichi/ikegami/index.html

このあたりは古くから景勝の地として親しまれてきた馬込・池上・洗足池の頭文字をとり、「馬池洗(まいせん)」と呼ばれています。坂道を探しに馬込へ来たなら、セットで立ち寄るのもおすすめ! 体力と時間に余裕があれば、きっと坂づくしの1日が過ごせますよ。

みなさんもよく晴れた休日には、坂道の街、馬込へふらっと散歩しに来てみてください。あ、歩きやすい靴をお忘れなく!

本記事のライター:安光 あずみ

プロフィール:
大田区在住のフリーライター。広告代理店で営業やディレクターを経験したのち、ライターとして独立。「ぼっちのazumiさん」名義でnoteも更新中。ひとり旅や街道歩き、神社巡りが好き。大田区のお気に入りスポットは「大森ふるさとの浜辺公園」。大田区に引っ越してから幾度となく通い続けている。

監修:松本里美/三好順