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  • 2024.11.30

『おおたオープンファクトリー2024』で1日町工場めぐり! モノづくり好きが見つけたプロの技術

休日になると陶芸や彫金などのモノづくり体験に出かけるのが趣味。手を動かすことの楽しさにすっかりハマっていて、最近は動画サイトでさまざまな職人さんの動画を見るのがマイブームなんです。そんなとき、ふと目にしたのが「おおたオープンファクトリー2024」の案内でした。

「オープンファクトリー」という聞き慣れない言葉に好奇心がくすぐられます。なんと、普段はなかなか入ることのできない工場の扉がこの日ばかりは開かれ、プロの技が間近で見られるのだとか。どんな工場が見られるのか、ワクワクしてきました!

「おおたオープンファクトリー」ってどんなイベント?

おおたオープンファクトリーは、町工場を地域に紹介するための一斉公開のイベントです。「本物の技術を見てほしい」「モノづくりの楽しさを知ってほしい」そんな職人さんたちの想いが詰まったイベントで、なんと今年で14回目の開催になります。

今回は72カ所もの工場や関連企業・団体が参加しており、イベント中には数々の町工場が公開され、見学はもちろん、職人さんとの対話や、世界でひとつだけの作品づくりも体験できるとか。「これは行くしかない!」と、早速事前予約必要なイベントへ問い合わせの電話を入れました。

そして、いよいよ2024年11月30日。朝10時の開始と同時に、私の工場めぐりが始まりました。

蒲田駅ビル「グランデュオ蒲田」では、おおたオープンファクトリーの出展企業がズラリ

まず向かったのが、JR蒲田駅からすぐの場所にある駅ビル「グランデュオ蒲田」東西連絡通路。こちらでは、おおたオープンファクトリーのスペシャルイベントが開催されていました!

さまざまな町工場がブースを出展しており、街の人も興味津々の様子。ブースの前で立ち止まって、職人さんと話し込んだり、体験コーナーでモノづくりに挑戦していたりと、賑やかな雰囲気に心踊る!

よく見ると、参加者の多くが片手に何か持っていることに気が付きました。おおたオープンファクトリーの情報がぎゅぎゅっとまとまった公式ガイドブックみたい。これがあれば、どこでどんなイベントが開催されているか一目でわかります。

私もスタッフさんからガイドブックを受け取って、早速予約していた町工場へと向かいました!

思わずお腹が空いてくる!本物にしか見えない「イワサキ・ビーアイ」の驚きの食品サンプル技術

食品サンプルと言えば、今や日本が世界に誇る文化。そんな食品サンプルのパイオニアが、創業92年の歴史を持つイワサキ・ビーアイです。

普段は浅草の合羽橋や東京ソラマチで食品サンプル作りの製作体験をしている企業、この日は特別に出展!大田区で食品サンプル作りを体験できると聞いて、体験する前から期待大です。

会場に入ると、すでにたくさんの人で賑わっていました!体験を始める前に、職人さんの実演から。

この日は「ろう」を使った昔ながらの食品サンプル技術で、本物そっくりなエビと野菜の天ぷらを作っていきます。子どもから大人まで、みんな目を輝かせながら職人さんの手元を見つめていました。

「1度しかやらないので、よ〜〜く見ていてくださいね!」

そう言いながら、お湯の張られた水槽にろうを流し込み、ろうでできたエビを入れると…あっという間に、まるで本物のような天ぷらが完成!

思わず「すごい!」と声が漏れました。周りからも「おおー!」という歓声が。職人さんの手さばきに、その場の全員が釘付けです。

でも、いざ自分でやってみると、これが予想以上に難しい……!ろうを流し込む量も角度もタイミングも、すべてが絶妙なバランス。真剣な表情で挑戦する子どもたちの横で、私も必死です。

出来上がった私の天ぷらは、ちょっと不格好でしたが、愛着が湧いて思わずニヤニヤ。持ち帰っていいとのことで、部屋のどこに飾ろうか妄想してしまいました。

普段はイワサキ・ビーアイが運営する「元祖食品サンプル屋」の店舗で、食品サンプル作りが体験できるのだとか。ホームページを覗いてみると、ナポリタンやパフェなど、夢のような食品サンプルが並んでおり、「次の休日は必ず行きたい!」と思いました。

イワサキ・ビーアイ

所在地:東京都大田区西蒲田8-1-11 株式会社岩崎 東京本社
TEL:0120-37-1839
公式サイト:https://www.iwasaki-bei.co.jp/
食品サンプル製作体験をご希望の方はこちら↓(要予約)。
「元祖食品サンプル屋」:https://www.ganso-sample.com/

世界で1つのハンコ作りに挑戦!0.4mmの世界に挑む、刻印の職人技に感動の嵐

次に訪れたのは、下丸子駅近くの路地にある赤塚刻印製作所。こちらの工場では金属の彫刻加工を行っており、世界に誇る「手掘りの金属彫刻」を手掛けているんです。

誰もが知る世界的な自動車メーカーや高級ブランドの製品に刻まれているロゴも、実はここで作られているものも多いのだとか。手彫りからコンピューター制御まで、さまざまな方法で極小の文字や模様を刻む技術は、世界でもトップクラス。

工場内に足を踏み入れてみると、そこには彫刻に使う数々の機械が並んでいます。機械油と金属の匂いに、どこか懐かしい気持ち。

こちらの工場で何十年にもわたって金属彫刻に携わってきたのが、代表の赤塚さん。1961年に父親が創業した赤塚刻印製作所で、職人として働く父の背中に憧れ、ご自身も職人の道を歩み始めたのだそう。

「これまでで一番難しかった仕事は、ヒューズ管という電気回路に使う部品に0.4mmの文字を刻印したことです。それほど小さな刻印は、とても微細な作業で、少しの力加減で文字が潰れてしまうので、機械ではなく手彫りで刻印するんですよ」と教えてもらいました。

0.4mmなんて、肉眼で見るのもやっとな大きさ。そんな繊細な技術が、私たちの身の回りの製品に使われていると思うと、なんだかワクワクしてきました。

今回、赤塚刻印製作所で体験させていただいたのはオリジナルハンコ作り。パソコンでデザインしたデータが、専用機械で美しく削り出されていく様子は、まるでマジックショーのよう。自分でデザインした世界で一つのオリジナルハンコ、ずっと大事にしたいです。

赤塚刻印製作所

所在地:東京都大田区下丸子3-8-19
TEL:03-3759-1589
公式サイト:http://akatsuka-kokuin.com/index.html

職人技が生み出す一点ものの家具の数々。家具工房「種沢製作所」

続いて向かった「種沢製作所」は、おおたオープンファクトリー唯一の家具製造工場。有名ホテルやブランドショップの椅子やソファを手がける職人さんたちの仕事場を見学させてもらいました。

「うちは特注家具がメインなので、毎日違うものを作っているんです。お客様の要望一つひとつに、技術で応えていく。それが私たちの仕事です」と語ってくれたスタッフさん。

今回は、さまざまな職人さんの家具作りを間近で見学することができました。特に心を奪われたのは、デンマークの名作「Yチェア」の座面を編む作業。なんと120メートルものペーパーコードを、ひたすら編みつづけるんです。職人さんの手から繰り出されるコードは、まるで織物のように美しい模様を描いていきます。

「我々は家具の布の張替えを中心に携わっていますが、ただ張り替えるといっても、美しい家具の姿を生み出すには、数ミリ単位の調整が必要なんです。“神は細部に宿る”という言葉の通り、見えない部分にこそ、私たちの誇りがあるんですよ」

スタッフさんのその言葉に、思わずグッときました。町工場の歴史や込められた想いを知ると、職人さんの姿がさらにかっこよく見えてきます。

「仕事の9割は法人のお客様です。ホテルや高級店舗の家具がメイン。でも、大切な家具の修理を持ち込まれる個人のお客様の思い入れにも、しっかり応えていきたいんです」

そう語る職人さんの真剣な眼差しを見ていると、この仕事に対する誇りと愛情が伝わってきました。

株式会社種沢製作所

所在地:東京都大田区矢口2-15-2
TEL:03-5482-7002
公式サイト:https://www.tanezawa.co.jp/

まるでクリーニングのテーマパーク!白洋舍が誇る日本最大規模のクリーニング工場

次に訪れたのは、クリーニングを専門とする「白洋舍」の多摩川工場。こちらは5階建ての大きな建物で、なんと約180名もの従業員が働いている、日本最大規模のクリーニング工場なんです。今日はそんな工場の各フロアを巡りながら、クリーニングの奥深い世界を教えてもらえるそう!

まずは社内の講義室にて座学の時間。そこで白洋舍の歴史や仕事について教えてもらったあと、クリーニングについて研究する研究員さんから面白い実験を見せてもらいました。水とドライクリーニング溶剤の違いを、折り紙とトイレットペーパーを使って実演。

水の容器に入れて振るとバラバラになってしまった折り紙やトイレットペーパーでしたが、ドライクリーニング溶剤に入れた方は思いっきり振ってもきれいに形が保たれていました。

さらに油汚れの実験も。油と同じ成分の薬剤がついた布をドライクリーニング溶剤に入れてみると、一瞬で汚れがきれいに…!「ドライクリーニングは油汚れには強いんです。でも水溶性の汚れは苦手なんですよ」という説明に、納得です。

続いては、いよいよ工場見学です。工場の扉を開けると、衣服がずらりと並ぶ光景が広がりました。

工場の1階は、クリーニングが終わった衣服を各店舗に出荷するために仕分けをするフロア。きれいにクリーニングされたお客様のスーツやコートが、次々とベルトコンベアを流れていきます。

ここに至るまでに、衣服がどのようにクリーニングされているのか…!?ますます興味が湧いてきたところで、工場のスタッフさんに各階、各工程をご案内いただきました。

ドライクリーニングを担当するフロアでは、13台ものドライ機が整然と並び、1日最大6,000点もの衣類を処理できるそう。さらにその隣では、しみ抜きの達人が実演を見せてくれました。

「シミの種類によって、使う溶剤を変えていくんです」と話しながら、次々と取り出される専用の溶剤。油性のシミ、水性のシミ、それぞれに合わせて丁寧に作業していきます。家庭では諦めてしまいそうな頑固な汚れが、見る見るうちにきれいになっていく……!

「しみ抜きは1時間に10点程度しかできません。でも、お客様の大切な服だからこそ、丁寧に」というスタッフさんの言葉に感動しました。

最後は仕上げ作業。スチームの立ち込める中、技術者たちが一着一着丁寧にアイロンがけをしていきます。

プレス機やハンガー吊り下げ式の仕上げ機など、さまざまな機械を使い分けながら、ぴしっと美しく仕上げていく様子は、まさに職人技。その姿を見ると、普段着る服をもっと大事にしようと改めて思いました。

株式会社白洋舍

所在地:東京都大田区下丸子2-11-1(多摩川工場)
TEL:03-5732-5111(代表)
公式サイト:https://www.hakuyosha.co.jp/

3色の光を使ってレタス栽培!?「LEAF FACTORY TOKYO」で未来の農業を見学

続いて見学に向かったのは、「LEAF FACTORY TOKYO」。入った瞬間、おしゃれな店内の雰囲気に「あれ?工場じゃなくてカフェに来ちゃった?」と思わず見回してしまいました。こちらの工場では、完全人工光型の栽培方法を実現しており、IoT技術を駆使した最新の農業に取り組んでいるのだそう。

工場の中を案内してもらうと、まるでSFの世界!棚がたくさん積み重なった空間で、カラフルな光に照らされた野菜たちが、すくすくと育っているんです。

「以前は音楽業界にいたので、農業とカルチャーを融合させたかったんです」という代表の大塚さん。その感性は、工場のデザインや雰囲気にも活きています。

「この青と赤の光の組み合わせで甘みが増すんですよ。品種によって光の色を変えているんです」そう語る大塚さんが見せてくれた野菜たちは、青々と美しく、まるで宝石のよう。実はスタッフさんの中には、大学で栽培技術を学んだ技術者もいるんだとか。最新技術を駆使しながら、おいしい野菜作りに挑戦しているんだそう。

工場を見学しながら試食させていただいたレタスとルッコラに、思わず「えっ!」と声が。青臭さが全然なくて、驚くほど甘い!光の色や量を変えることで、野菜の育ち方や味をコントロールできるのだとか。野菜が苦手な方でも、これなら毎日食べられそうなくらいです。

クリーンルームのような空間では、農薬を使わなくても虫がつく心配なし。そのため、レタスは洗わずにそのまま食べられるそうなので、洗う手間いらずでありがたい……!

しかも、採れたての野菜は自社の保冷車で直接配送。年間生産量が予測できるため、取引も安定的だそう。技術とセンスで農業の課題を解決しながら、新しい未来を切り開いていく姿勢がありました。

「普通の農業だと天候に左右されたり、休みが取りづらかったり。でも、ここなら週休2日でしっかり働けます。若い人たちと一緒に、新しい農業の形を作っていきたいんです」という大塚さんの言葉にワクワクが止まりません!

LEAF FACTORY TOKYO

所在地:東京都大田区東糀谷3-9-4(FARM HANEDA)
TEL:03-6423-7081
公式サイト:https://leaffactory-tokyo.co.jp/

最新鋭のマシンでモノづくり体験!「大三建商」で出会う驚きの技術

オープンファクトリーの最後に訪れたのが、蒲田エリアに拠点を構える「大三建商」。もともとは建築資材の商社として1966年に創業した大三建商が新拠点として蒲田に工房を立ち上げました。

工房に足を踏み入れた瞬間、心地よい木の香りと、どこかモダンな雰囲気。かつての工場だったビルを改装した空間には、ものづくりの新しい可能性が詰まっていました。

工房の奥に進んでいくと、大きなCNCルーター「Shot Bot」が鎮座しているのが見えてきましたよ!こちらの機械では、中にあるビットという刃物が高速回転して、どんな形でも削り出せるのだとか。

パソコンで作られた図面データをもとに、全自動で動き、切断はもちろん、溝彫りや面取り、なんと3D加工まで可能なんて驚きです!

「このサイズの機械は、実は日本で初めてうちが導入したんです」とスタッフさんが誇らしげに教えてくれました。

この日は、そんなハイテク機械を使って「ミニスツール作り」を体験させてもらえることに!

あらかじめ製作された図面データを使って、機械を動かすと、大きな音とともに木材が削られていきます。その様子はまるでプラモデルのランナーのよう!正確で素早い動きに、思わず釘付けになってしまいました。

この機械を使うことで、既製品では難しい隙間家具や、好みの形の椅子の脚を作ったり、表面に彫刻を施したりすることもできるのだそう。

木材が切断できたら、あとは板から切り離して、ヤスリをかけ、組み立てるだけ。あっという間にミニスツールが完成しました!

隣で一緒に体験していた親子連れの参加者さんは、「うわぁ、すごい!」「お父さん、見て見て!」と大喜び。出来上がった作品を手に取る子どもたちの目が輝いているのを見て、私も思わず笑顔になりました。工場の新しい形を提案する、この心躍る空間にまた来たい気持ちでいっぱいです。

大三建商株式会社

所在地:東京都大田区蒲田本町2-7-3 大三蒲田ビル
TEL:03-3871-3311
公式サイト:https://daisan-kamata.com/

同日開催の「しもまるこストリートキャンピング」で街も賑やか

工場めぐりの途中、下丸子の街ではもうひとつの楽しいイベントが開催中でした。「しもまるこストリートキャンピング」です。いつもの商店街が、この日ばかりは特別な空間に変身!

駅前には足湯通りが出現し、疲れた足を癒してくれます。青空フードコートには、ピッツェリアやお好み焼き、串カツなど地元のお店が軒を連ねており、食べ歩きにぴったり!

また面白いのは、銀行での特別イベントです。お札を数えるスピード対決や、窓口での記念撮影など、普段は体験できない企画も。占いやマッサージなど、地元の人たちの特技を活かした催しも豊富で、街全体からお祭り気分が漂っていました。

工場と住宅が仲良く共存する下丸子ならではの光景が広がり、この日は2つのイベントが重なって、普段の何倍も賑やか。住む人、働く人、訪れる人が一緒になって、モノづくりの町の新しい魅力を作り出していました。

しもまるこストリートキャンピング

所在地:東京都大田区下丸子 3-9-10 下丸子商店会
アクセス:東急多摩川線 「下丸子」駅より 徒歩2分
https://www.instagram.com/shin_shimomaruko_project/

大田区で受け継がれる「技術」と「誇り」に胸いっぱい

おおたオープンファクトリーを満喫した帰り道。電車に揺られながら、今日見た風景を思い返していました。

イワサキ・ビーアイの魔法のような食品サンプル作りから、赤塚刻印製作所のミリ単位の刻印技術、種沢製作所の丁寧な手仕事。白洋舎の確かな技術、LEAF FACTORYの革新的な農業、そして大三建商の新しいモノづくり。どの工場も、私の想像をはるかに超える技術と歴史をもっていました。

でも、それ以上に心に残ったのは、一人ひとりの仕事への愛情。この街の職人さんたちが持つ誇りと情熱に「私ももっと、モノづくりをしたい!」と強く心を打たれたのが良い思い出です。来年は、また新しい発見に出会えるのかな。今からもう、次が楽しみで仕方がありません!

本記事のライター:たるちゃ

プロフィール:
取材を通じて、1年に15以上のローカルを訪れる東京暮らしのフリーライター。普段は幅広いジャンルの取材記事やインタビュー記事を中心に執筆している。

まちの新しい魅力を発掘したり、まちを好きになってもらうための発信をすることがライフワークで、大田区の魅力にももっと出会いたいと思い、休日はよくお散歩に出かけている。
最近は大田区の空手教室に通いはじめ、稽古に邁進中。

監修:松本里美/三好順